一般的にやわらかくて傷がつきやすいといわれる杉は、家具には不向きなのでは?と感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし実際には、杉の家具の評価は、使われる杉材の条件によって大きく左右されます。特に樹齢・赤身部分の使用・木取りの方法といった要素が、杉材の性質や使い勝手に影響します。一般的な若い杉材と樹齢100年以上の杉材では、その特性に違いが見られます。
本記事では、一般的な杉材と樹齢100年以上の杉材の違いを解説し、杉の家具がどのような条件で安心して使えるのかを整理します。
杉は家具に不向き?
結論から申し上げると、杉は条件によっては家具に不向きとは限りません。杉の家具が不向きと言われる背景には、若い杉材の使用に加え、やわらかい材質を傷がつきやすい用途に使ってしまったケースがある点が挙げられます。
たとえば、樹齢の浅い杉材をダイニングテーブルの天板のように日常的に負荷がかかる場所に使用すると、傷や凹みが目立ちやすくなります。
一方で、樹齢が長く年輪が密に詰まった杉材や、赤身部分を中心に使用した杉材は、強度や耐久性に優れています。用途や使われ方を考慮すれば、家具材として十分に活用できます。
杉材の向き不向きは、素材そのものではなく、材の選び方と使い方によって左右されるのです。
杉は家具に「不向き」と言われる理由

杉が家具に不向きと言われる理由には、いくつかの共通した誤解と、実際の材質特性に基づく課題があります。
やわらかく、傷がつきやすい
一般的な杉材は成長が早く、やわらかい材質が多い傾向にあります。特に白太部分を多く含む若い杉材は、針葉樹の中でも気乾比重が0.30〜0.38程度と比較的軽く、柔軟性がある反面、物を落としたり家具を引きずったりすると傷や凹みが生じやすい特性があります。
このやわらかさは、用途によっては衝撃を吸収しやすいといったメリットにもなりますが、ダイニングテーブルの天板のように日常的に負荷がかかる場所では、傷が目立ちやすくなります。
材の性質と用途が合っていないと、杉のやわらかさがデメリットとして現れやすくなります。
反り・割れが気になる
無垢材全般に起こりやすい現象として、反りや割れがあります。杉材も無垢材である以上、環境の温度や湿度変化によって、材の内部で水分の収縮と膨張が繰り返されます。
この動きによって反りや割れが生じることがありますが、これは杉材だけに見られる特性ではありません。
樹齢や木取りの方法、含水率の管理によって、反りや割れの発生頻度は大きく変わります。特に柾目取りの材や、十分に乾燥させた材を使用することで、こうしたリスクは抑えやすくなります。
水・湿気に弱いと思われがち
若い杉材や白太部分を多く含む材を使用した場合、湿気や水分の影響を受けやすいという側面があります。白太部分は根からの水分や養分を通す役割を持っていた部分であり、含水率が高く、水分を吸収しやすい性質があります。
そのため、適切な乾燥処理や仕上げを施さないまま使用すると、湿気による変形や腐朽のリスクが高まる可能性があります。ただし、杉材が一律に水や湿気に弱いわけではありません。
特に赤身部分は、樹脂分や抽出成分を多く含むため、白太部分と比べて耐水性や耐腐朽性に優れる傾向があります。樹齢や材の状態、使用環境によって、耐久性には大きな違いが生まれます。
一般的な杉材と樹齢100年以上の杉の違い

同じ杉でも、樹齢によって性質が大きく異なり、家具への向き不向きが分かれます。一般的な杉材と樹齢100年以上の杉材では、年輪密度や材の安定性に明確な差があります。
年輪密度と樹齢の違い
若い杉材と樹齢100年以上の杉材では、年輪の詰まり方が大きく異なります。樹齢30〜40年程度の若い杉材は成長が早く、年輪幅が広いため、材の密度が低くなる傾向があります。
一方、樹齢100年以上の杉材は、成長がゆっくりと進むため年輪が密に詰まり、材の密度が高くなります。年輪密度が高い材は、一般的に強度や耐久性に優れ、腐敗や虫害にも比較的強い特性を持ちます。この違いが、家具としての性能を大きく左右するのです。
樹齢が高い杉材は、長期間にわたって環境に適応してきた結果、材になった後も安定性が高く、劣化しにくいという特徴があります。
柾目取りによる寸法安定性
柾目取りとは、丸太の中心に向かって年輪と直角に近い角度で製材する方法です。柾目材は、年輪が直線的に並んでいるため、収縮の方向が均一で、板目材に比べて反りや変形が生じにくい特性があります。
板目材は年輪が曲線状に現れるため、湿度の影響で収縮の方向が不均一になり、反りが発生しやすくなります。柾目取りの杉材は、寸法安定性が高く、家具として長期間使用しても形状を保ちやすいのが大きな利点です。
また、柾目材は細かい縦縞の木目が美しく、上品な印象を与えるため、デザイン面でも優れています。
百年木材の杉の家具が選ばれる理由

樹齢100年以上の杉材を使用した家具は、「安心して使える質」を重視する方に選ばれています。その理由は、材そのものの品質に加え、素材の特性を理解したうえで選ばれ、使われている点にあります。
高品質な杉の赤身から生まれる、傷みにくく長持ちする強さ
赤身部分は、杉の丸太の中心に近い部分で、心材とも呼ばれます。赤身には樹脂分や天然の抽出成分が多く含まれており、白太部分と比べて耐久性に優れる傾向があります。
水やカビ、腐朽菌に対する抵抗力が高く、シロアリなどの虫害にも強い特性があるため、長期使用を前提とした家具材として適しています。
法隆寺の昭和大修理に携わった西岡棟梁は、杉の赤身について「100年以上もつ」と語ったとされています。この言葉からも、赤身部分が長い時間軸で使われてきた耐久性の高い材であることがうかがえます。
また、時間の経過とともに色味が深まり、落ち着いた表情へと変化していく点も、赤身材ならではの魅力です。
幅広の柾目取りによる、反りにくさと上品な木目の美しさ
幅広の柾目取りは、構造的な安定性と美しい木目の両方を実現します。柾目材は収縮や反りが少なく、寸法が安定しているため、施工しやすく扱いやすい無垢材です。
特に樹齢100年以上の大径木から取れる幅広の柾目材は、継ぎ目が少なく、広い面積でも安定した状態を保ちやすい点が特長です。このため、長期間使用する家具においても、形状の変化が起こりにくくなります。
また、細かい縦縞の木目は主張しすぎず、空間に自然になじむ表情を持っています。
柾目材ならではの落ち着いた木目は、シンプルな家具デザインとも相性がよく、長く使っても飽きにくい印象を与えます。
空間を選ばず取り入れやすい、軽やかなモダンデザイン

樹齢100年以上の杉材を使用した家具は、アイアン脚との組み合わせや、直線的なラインを活かしたデザインによって、モダンで洗練された印象を生み出します。
杉材のやわらかな色合いと木目に、マットブラックのアイアン脚を合わせることで、重たくなりすぎず、空間を引き締める効果も期待できます。
また、杉材は比較的軽量であるため、家具全体の重量も抑えられます。その結果、配置替えや日常的なメンテナンスがしやすい点も、暮らしの中では大きなメリットとなります。
シンプルで無駄のないデザインは、特定のテイストに寄りすぎることなく、住空間やライフスタイルの変化にも柔軟に対応しやすい特徴があります。
百年木材の「柾目の家具シリーズ」—世代を超えて使える杉の家具
これらの条件がそろった杉材を使用することで、使い始めの美しさだけでなく、時間の経過とともに深まる表情も楽しむことができます。
こうした変化を含めて、長く付き合っていける点が、世代を超えて使える家具といえる理由です。
百年木材の「柾目の家具シリーズ」では、こうした高樹齢材の特性を活かしながら、日常の暮らしの中で無理なく使い続けられる家具づくりを行っています。
詳細については、柾目の家具シリーズをご覧ください。

